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【募集・採用の基礎知識⑫】賃金の支払い義務について

出典:公益社団法人全国求人情報協会「募集・採用の基礎知識」

賃金とは「労働の対償として雇用主が支払うもの」です。

まず労働があって、その報酬として賃金が存在します。数日間でも「働いた」社員に対しては、その対象として働いた分の賃金を支払う義務が発生します。


目次[非表示]

  1. 1.賃金の支払い
    1. 1.1.短期退職者に対する支払い
    2. 1.2.欠勤・遅刻・連絡がつかない者への支払い
  2. 2.入社前・試用・研修・インターンシップの賃金
    1. 2.1.入社前研修や教育訓練中の賃金
    2. 2.2.試用期間や研修期間の賃金
    3. 2.3.インターンシップの賃金
  3. 3.契約内容に従事した支払い対応を
    1. 3.1.契約した労働時間は保障する
    2. 3.2.イレギュラー時の対応
      1. 3.2.1.育児・介護休業などの賃金
      2. 3.2.2.裁判員に選ばれた者の賃金
      3. 3.2.3.インフルエンザで休ませたときは
      4. 3.2.4.損害賠償から賃金を差し引けるのか
  4. 4.まとめ

賃金の支払い

短期退職者に対する支払い

「たったの数日出勤したもの」「無断欠勤や遅刻が多い勤怠不良者」など、賃金を支払いたくない…と思ってしまう人も中にはいるかもしれません。

しかし、せっかく採用してすぐに辞めてしまったとしても、その数日間・数時間働いた分の対償は、賃金として支払う必要があり、それを怠ると法律に違反してしまいます。

また、「遅刻が多いから罰金10万円」など、多額の減給制裁を科すことも、労働基準法により許されません。ただし、就業規則で「減給の制裁規定」を定めておけば、労働基準法の定める範囲内で賃金を減給することは可能です。

例えば、「遅刻3回につき○△円を賃金から差し引く」と定めることはできます。(1事案について平均賃金の1日分の50%、一ヶ月分の賃金の10%を超えないことが要件)

欠勤・遅刻・連絡がつかない者への支払い

欠勤や遅刻などによって就労しなかった分の賃金は差し引いても問題ありません。5分の遅刻を5分ぶんだけカットすることはノーワーク・ノーペイ(※1)の原則に反しませんが、5分の遅刻を30分の遅刻としてカットするような処理は違法です。※1 職務に従事しなかった期間・時間については賃金を支払わなくても良いという原則

少しの遅刻に対してあまり多額の減給をすることは法の趣旨にも反し、労務管理上良い効果があげられるのかどうかを十分に検討しておく必要があります。

連絡がないまま勝手に辞めてしまった、急に来なくなった労働者に連絡がつかないため給料が支払えない場合、給料の支払いを振り込みとする契約をしていれば、振込先に給料を支払いましょう。振込先が分からないという場合は、本人がいつ取りにきても支払えるようにしておかなければなりません。

賃金の支払いの時効(賃金の請求権)は2年間なので、この間に本人が給料を取りに来た場合は支払いに応じましょう。なお、退職金についての時効は5年間です。

入社前・試用・研修・インターンシップの賃金

入社前研修や教育訓練中の賃金

雇用主が内定者に対し、雇用契約の範囲内で実際に業務・仕事に従事させるにあたり、必要な知識・技能を習得する教育訓練を行う場合、その受講を指示された内定者は受講せざるを得ないことになります。

このことから、教育訓練を受けることも労働に従事すべき義務の一環で、研修内容が業務・仕事に関連し受講が義務付けられている場合は、労働に従事したものとして賃金を支払う義務があります。

入社前研修の賃金については、一般的には賃金を日割りにしたり、その間をアルバイト採用として賃金を支払う企業が多いです。

試用期間や研修期間の賃金

労働者の適性をはかるために、試用期間や研修期間を設けてその賃金を定める場合は、特に法律上の明確な規制はありません。(ただし、最低賃金以下は法律違反)

しかし、試用期間だからといって、他の従業員と大きな差をつけることは好ましくありません。試用期間中の賃金が本採用と異なる場合は、求人広告にその金額の表記が必要となります。試用期間中の賃金表記がないことで発生するトラブルも多く、必ず表記するようにしましょう。

インターンシップの賃金

インターンシップの実習が、見学や体験的なもので雇用主から指揮命令を受けていない場合、労働者としては認められず、賃金の支払い対象にはなりません。しかし、生産活動に従事させ、事業場と学生の間に使用従属関係が認められる場合は、労働者に該当するものと考えられ、賃金の支払いが必要となります。

契約内容に従事した支払い対応を

契約した労働時間は保障する

「週5、一日5時間」といった約束でパートタイマーを雇っているような場合、仕事がないからと3時間で帰らせたり休ませたりすることはできません。雇用契約にあたって日数、時間帯を決定しているので、その時間は労働を提供してもらい、賃金を支払う義務があります。

雇用主の都合で休んでもらう場合は、休業手当(平均賃金の60%)の支払いが必要です。

イレギュラー時の対応

育児・介護休業などの賃金

育児・介護休業、産前産後休暇、育児時間などの賃金を有給として取り扱うかどうかは企業によって定め方が異なります。就業規則などで明確にしておきましょう。

裁判員に選ばれた者の賃金

裁判員に選ばれた者は、労働基準法第7条に定める「公の職務」にあたります。労働者から請求があれば、そのための時間(または日)を与えなければなりません。その時間の賃金を有給とするか無給とするかは、当事者の自由にゆだねられていますので、会社に賃金支払い義務はありません。

また、裁判員には日当が出るからと言って、有給休暇の申請を拒否することができません。仕事を休んだことを理由に、雇用主が不利益な取り扱いをすることは法で禁止されています。

インフルエンザで休ませたときは

まだインフルエンザかどうかを分からず、熱などの症状があるからと雇用主の判断で休業させた場合は、労働基準法第26条「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当を支払う義務が発生します。

なお、インフルエンザに感染した労働者が医師の診断書や指導などをもとに休業する場合は、休業手当を支払う必要はないと考えられます。

損害賠償から賃金を差し引けるのか

会社が労働者による損害を被った場合でも、賠償額を賃金から差し引くことは賃金全払いの原則に反すると考えられます。労働者が業務を遂行する中で発生した損害については、労働者のみに責任を負わせることは不公平であり、損害負担については労使双方に公平な分担とするのが一般的です。

まとめ

労働に対する対価として、賃金は労働者に支払わなければなりません。労働者の勤務態度や勤怠不良が目についたとしても、会社が勝手に賃金を差し引いたり未払いにすることは法律的に許されることではありません。遅刻者や欠勤者への減給を行う場合は、労働規定として初めに定めておく必要がありますが、多額の減給設定などはトラブルの元になります。法律をしっかりと守り、賃金の支払い義務は責任もって果たしましょう。

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